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--エピローグ--

 すべての道はローマに通ず

 田沢湖をあとにした僕は、一般道をゆっくりと南下し、秋田県大曲市で健康センターに入った。たらふくとビールを飲み、仮眠をとって夕方に再出発。国道を避け、無名の県道を走っているうちに日が暮れた。秋田県から岩手県へと抜けようとしていたのだが、県境付近で冬期通行止めにあい、もと来た道を延々と引き返すことになった。

 県境を国道で越えたあと、また県道に入った。月あかりしかない夜の道を、ときどき迷っては引き返したりしながら、ただ一人延々と走りつづけた。走りながら上を見上げると、降り注ぐような満天の星が勇気をくれる。風を切る音が聞こえないぐらいに速度を落とすと、カエルの大合唱があちらからもこちらからも共鳴して大音響サラウンドになっている。前沢で休憩をとっていると、店の人が話しかけてきた。昔、ナナハンに乗っていたと言う。通ってきた道を説明すると、なぜだかひどく驚いていた。

 前沢から高速で帰ろうかと思ったが、だらだらと国道4号を南下しているうちに仙台の居酒屋にたどり着いていた。隣の席には、地元の商店主会合の打ち上げといった風情の数人が意気さかんに女の話で討論していた。

「やっぱロマニアだっちゃよ、ロマニア」

 最初、僕は人の名前かと思った。しかしどうもそうではなかった。
「同じパツキンでもよぅ、ロシア人みたいにすぐ太んねえし、ちょっと小ぶりで気立てがよくって、なんつっても、やさしいんだなあ」
 彼は、やっぱロマニアだよ、を何度もくり返して強調した。
 ルーマニア語でロムニア。ローマ人の住む土地という意味のルーマニアについて僕が知っているのは、即日死刑になった元大統領チャウチェスク夫妻の無残な姿の新聞写真と、首都ブカレストの名前ぐらいだったろう。政情は不安定、経済は停滞。そんなはるか遠くの異国人への思慕が、ひょんなことから沸き起こった瞬間だった。
 けっきょく僕はこの晩、家に帰るのをやめ、そのまま仙台にとどまって、話にあったロマニアの地を求めて夜の街をさまよった。

 ひとつの山にのぼって、はじめてその向こうにそびえる峰々の存在に気づくように、西木をめざした僕はこれからロマニアへの新しい道を進んでいくことになるのかもしれない。

 畢竟(ひっきょう)、冒険家(バトルツアラー)には、未踏の大地も、越えるべき国境も、道祖神たる哲学もいらない。モーターサイクルと、酒と煙草と女。そして、ただ走るだけである。


 


 
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