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 はじめてのハングオン

 午前5時。寒さのあまり、ふっと気を抜くと速度が極度に落ちている。このままでは間に合わない。なんといっても、東北道を降りてから距離にして50kmは一般道の山道を抜けなければ田沢湖西岸の西木村には着かないのだ。ターゲットの小さな駅を探す時間も考慮に入れなければならない。

 と、盛岡の手前でぶっ飛ばしている大宮ナンバーのレガシーにズバビュンと抜かれた。もはや単独でペースを上げることができない状態にあった僕は、このレガシーに必死で食い下がり、ペースアップをはかった。つ、つれ〜!
 激しい振動と風圧に堪えている最中、タンクの上をコロコロと何かが転がるのが見えた。とっさに片手をハンドルから離して押さえた。見ると、レーダー探知機を固定しているネジである。けっきょく片手でレーダー探知機を押さえたまま滝沢インターをくぐった。

 澄みわたった朝の空をくっきりと雪の稜線で切り取ったような岩手山。見とれて一直線の道を走っていると、岩手山がどんどん大きくなって迫ってきた。広大な自衛隊の演習場がつづく。おかしい。正しいルートなら岩手山は右手に見えるはずだ。地図を見ると、自衛隊の演習場の中を一直線に岩手山をのぼっていく道があり、「岩手山がせまる」というルート解説があった。
 まさにこれって、岩手山がせまってるよな〜、ってことは、この先は行き止まり。道を間違えていたわけだ。引き返して正しいルートに復帰。こんなことしていて7時30分の列車に間に合わなかったら、ホント、何のために来たのか分からない。一生笑われ者の冒険家である。

 小岩井農場の横を猛スピードで駆け抜け、もちろんそのときは必死でこれがかの有名な小岩井農場であるとは思いもよらなかったが、仙石トンネルを抜け、田沢湖の20km圏内に入った。

 田沢湖を半周する周回ルートに入り、湖岸沿いのワインディングロードを走っているうちに、昂揚感とともに次第にペースが上がっていく。ぎりぎりまでブレーキングをため、アクセル全開でコーナーを抜け出し、短いストレートを上体全伏せのまま開け開けで突き進んでいく。おのずとコーナーが近づくと体を立て、つま先ステップでハングオン体勢。気分はマン島TTレース。このバイクを買ってからハングオンなどするのは、はじめてである。西木村の看板。胸の鼓動とともにますますペースは早まる。金色に輝く有名なタツコ姫の像の横を通りすぎたはずだが、こっちはそれどころではない。
 田沢湖を離れ、鉄道と並走するルートで、畑仕事をする老婆が視界を通り過ぎていった。西木村での女性第1号というだけのことで、なぜか感動している。なんなんだ、この胸のトキメキは!

 

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