| 夏ジャンパーで気温0度
2003年のゴールデンウィークは中とび連休で国民には不評だった。しかしこのミッションに限って言えば、僕にとっては好都合である。休日では縦貫鉄道に咲き乱れる女学生には出会えない。
金曜日午前1時。突貫作業の甲斐があり、やっと仕事に目処がついた。
「ほんとに行くの?」
と、準備をしている僕を見て妻が言った。
「寒いかな?」
「あたたかいって言ってたよ。でも革ジャンにしとけば」
「いいや、これで」
と、僕は夏用ジャンパーをさらりとまとった。
午前1時30分、バイクのエンジンに火を入れ、はるか570kmかなたの東北道滝沢インターチェンジ(盛岡の北)をめざした。シールドからもれてくる夜風が頬に気持ちよく、滑走路のような高速道路の灯に導かれる深夜のフライトはきわめて順調だ。
利根川にかかる大きな鉄橋を過ぎた瞬間、ひやりと空気が変わった。栃木インターを過ぎたあたりでは、かなり体が冷えてきた。まあ、このへんはスポット的に寒いのだろうと、あえて楽観を自分に言い聞かせて進む。電光の道路案内板が映し出した文字は「ただ今の気温 7度」
前進をつづけるうちに、電光掲示板に表示される気温は徐々に下がっていった。僕の意思決定器官は、それでもデフレスパイラルを否定する経済大臣みたいにかたくなに、「気温の低下は一時的なもので、実体経済は強い」などと、悲鳴を上げる自分の肉体に自作自演で言い訳しつづける。
そして、ついに。岩手県の前沢パーキング付近の電光掲示板が「気温0度」をたたきだした。
「いや〜、やっぱデフレスパイラルでしたね。わははは!」
そこでやっとカッパを防寒のために着用する緊急措置を発動。遅せんだよ、もっと早く認めろよなぁ、と不平を言う国民の肉体。
体の芯まで完全に冷えきってしまい、煙草の灰がぶるぶると落ちるほど全身がふるえている。なんとこの日から「健康促進法」なるものが全国的に施行され、パーキングエリアの施設を含むあらゆる公共設備の中での喫煙が禁止される措置がとられていた。案の定、貼り紙がしてあり、僕は指先から灰をぼたぼたと落としながら息さえも白い屋外で煙草を吸った。
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