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序、 ルンプロよ、旅立つのだ
<1995年6月28日>
おりゃー! 百枚っちょあがりぃ!
ワープロの打ち出しに九時間。夜が明けてしまった。原稿を角型三号の封筒に入れ、郵便局の開局を待つ。
脳髄の最後の一滴までふりしぼった小説原稿を新人賞に応募したあと、上野、我孫子、とバイクを縦横に走らせる。バイク用品店、ホームセンター、ディスカウントストアー、スポーツ店をめぐり、必需品をかき集め終わったのが午後4時50分。名作アニメ「ガンバの冒険」の最終回に間にあった。宿敵ノロイを倒し、取りもどしたばかりの平和に背をむけ、ガンバたちはまた旅立つ。涙がタテに飛んだ。「冒険者よ、旅立つのだ」というセリフが頭を何度も去来する。
そう。俺はルンプロ。
ルンペンプロフェッショナルというのは、ルンペンのプロではない。ルンペンとなろうともプロフェッショナルの気概を忘れぬ孤高の職業意識を指す。しかしルンプロだって生活はある。六時からはアルバイトに出た。
九時に家にもどると、飯もそこそこに今日買ったばかりのテント、シュラフ、エアーマット、ランタンをパッキング。ヴェテランツアラーはパッキングを見れば分かるというが、われながらへたくそなパッキングだ。俺は今晩、旅に出る。生まれてはじめてのキャンプツーリング。生まれてはじめての北海道。
約束のコンビニには30分も前に着いた。満載の荷物の強度のテストもかねて、周辺を走りまわる。とにかく、じっとしていられないのだ。
まもなくオッサンが登場。悔しいがヴェテランツアラーの出で立ちだ。
だいたいこのオッサンという中年暴走族がいなければ俺は北海道に行こうなんて思わなかったろう。RC45という200万円もするバイクを新車で買った独身中年男だが、生態はきわめて変態にして野卑、言動不審にして、豪放磊落、そして無国籍。一方で、苛烈な仕打ちを自らの肉体に課すことを何より悦びとする殉教者の風貌をもつ敬虔なクリスチャン(教会の中ではかなり偉い人らしい)でもあるオッサンは、何より俺と同じ孤高なるルンプロである。スーパーバイクレーサーをあきらめた挫折感を胸に、作曲家をめざすオッサンの曲を一度聞かせてもらったことがあるが、正直いってあまりに孤高すぎて素人の俺にはよく分からなかった。
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