メニュー>> ルンプロ2人北海道95 インデックス
22、翼よ、高度を保て

<七月八日 土曜日>

 早朝五時半、青森港着。
 下道をガンガン走って帰りたかったが、このエンジン不調だ。やむなく東北道青森インターから高速道路で南下。スピードメーターと距離計がないので、やみくもだ。1時間半走るごとにガソリンがからっぽになる。地元ナンバーのゴルフ族らしき高級車のあとを伴走していると楽だ。モーゼが海を割ったみたいに、道が開ける。エンジンに負荷をかけないためにも、余計な車線変更や加減速はしないですむ方がいい。

 給油のみの休憩なしで、ひたすら一定速度で走る。
 栃木あたりで集中豪雨に遭遇し、またもやバケツをひっくり返したような雨。北海道を走り抜いたタイヤは溝も磨耗しつくしてツンツルテンで、川みたいになった高速道路を走るのはほとんど氷上スケートだ。タイヤの感覚に意識を集中し、ハイドロプレーンのわずかな兆候も見逃さぬようデリケートにアクセルを操作する。

 睡眠不足。疲労。エンジン不調。豪雨。
 過酷な状況下ではヘルメットの内部でさまざまな幻覚が去来する。睡魔という言葉は、真に登山者とライダーのためにある。ハイドロプレーンの恐怖をカンフル剤に精神を高レベルで維持をしなければならない。タコメーター5500回転のラインを死守する。少しでも気を抜くと恐怖に負け回転計が下降しはじめる。回転計が高度計に見えてくる。大西洋無着陸横断を成し遂げたリンドバーグ卿の最大の敵もまた睡魔だった。時代が違えば飛行機乗りになっていたかもしれない。高度を保て。パリの灯は見えるか?

 午前11時50分。自宅に帰着。
 けっきょく千葉の自宅に帰るまで雨は降りつづいた。バイクからキーを抜いた瞬間、雨の中、俺は崩れるようにその場にへたりこみ、今日はじめての煙草を吸った。雨に濡れて湿っぽい煙を、むさぼるように吸いこんだ。生きているという実感。

<本日の走行・750キロ>

 エピローグ

 
 愛機のエンジンはそうとうダメージを食らっていて、まもなく手放した。
 オッサンは七月下旬に生きて帰ってきた。富良野でアルバイトをやったりしながら、けっこう楽しんできたみたいだ。
 夏のあいだ、あいかわらず二人して近場の山や海にバイクでくりだしていたが、お互いに早くも旅の虫が騒ぎだしてきたようだ。
「奥利根の源流のぼり、なんてどうでヤス?」
 ザイルを使って水の中を進んでいく荒行らしい。もっとマトモなことは考えられぬのかといいつつ、俺もまた、まだ見ぬ聖地に思いを馳せていた。

<データ・全走行 4090キロ・総費用 95880円・平均燃費14キロ>

 

 メニュー>> ルンプロ2人北海道95 インデックス Copyright: BananaFish Days 2001