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20、キツネの格闘

 ようよう積丹半島のキャンプ場に着いたときには、あたりは真っ暗。キャンプ場の管理人の姿も見えない。
「なんかここ、閉鎖されてるような気がしないでもないが。」
 俺は正直いってかなりビビッていた。マジでひとけがない。
「うーむ。」
 電灯も何もない。完全な闇。
「いちお、キャンプ場になってるし、ここでテント張るしかないでしょうなあ。」
 オッサンは、足もとにかがみこみながらいった。
「どうした?」
「蛇だ。」
 オッサンは蛇の尻尾をつまんで立ちあがった。つけっぱなしにしているバイクのライトに照らしだされて、そいつはゆらゆら揺れていた。オッサンは蛇に鼻を近づけると、
「くっせ〜! 腐っとるじゃ〜。」
 そして、ぶうんと腕を回転させたかと思うと、草地にむかって死骸を放り投げた。すると、闇の静寂を破って、がさがさという大きな物音がした。俺は本気で背筋が凍った。てっきり熊かと思っていたら、離れたところで二匹のキタキツネが小さく跳ねながら茂みから現れ、消えた。
 買いだしに行こうにも、近くに店らしきものもなく、飯もそこそこにねぐらに入った。
 夜中、テントの外の喧騒で目が覚めた。何かが激しくものを奪いあう気配がする。テントのなかで俺は完全に縮みあがっていた。
 翌朝、テントのまわりに昨日の蛇の死骸が散乱していた。
「キツネのしわざだなあ。」
 というと、オッサンは、つま先で肉片をころがした。

<七月七日 金曜日>

 海沿いの道を走る。
 ぐるっと半島をめぐる。雷電道路という名前のように、切り立った断崖が海の荒波とせめぎあう雄雄しい景観がつづく。晴れ空が急に真っ黒な厚い雲に覆われたかと思うと、激烈な猛雨に襲われた。先を走るオッサンはてんで止まる気配はなく、それどころかどんどんペースを上げていく。海は荒れ狂い、崖は土砂の重みにひしめき、前も見えないほどの豪雨の中をひた走るバイク。嵐の男。ふとそのとき、オッサンはきっと嵐を楽しんでいるのだと思った。滝打ちに苦行に堪える聖セバスチャン。もうどうしようもないほどの雨の中を走っていると人間は歌わずにはいられないようだ。さっきから俺はひたすら陽気にジャイアンのテーマを歌いつづけている。おーれはジャイアーン、がーきだいしょー! へーイ!

 

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