メニュー>> ルンプロ2人北海道95 インデックス
18、オッサンはデビルマン?

 <7月6日(木)>

 
 夜中の三時ごろ。
 クルマのクラクションで目を覚ました。すぐ横で、プーーーーーーっと鳴らしっぱなし。つづいて何台ものクルマがバッタンバッタンとドアを開けたり閉めたりをくり返し、騒々しい笑い声とふざけあう怒鳴り声。

 時間が時間だし、最初は釣りの準備でもしているのかと思い、よっしゃ、いっちょ俺も釣竿を、なんて起きだしてはみたが、それにしても、奇声を発する、むやみにドアをバタンバタンやる、大笑いする、とどうも尋常じゃない。他のライダーのテントも5、6張りあったが、皆、静かに寝静まっている。そのうち、どうもわざとうるさくしているとしか思えない状況になってきて、だんだんイライラしてきた。徹底して俺たちのテントのまわりでやっているのだ。テントの外に出ると、薄暗いなかで十人ぐらいのおっちゃんたちがいっせいにこっちを見た。俺は虚勢を張って、むんずと腕組みで仁王立ち。しかし当然ながらまったく効果がないので、今度は三歩前進してヤンキー座りで目を細め、じーーーーーーっと一人一人の顔を見ていく。さすがに気味悪く思ったか、何人かはこっちを意識して静かになったが、逆に、なんでえあいつって感じで余計にうるさく騒ぐやつもいた。俺はもう三歩近づいてウンコ座りのまま、今度はえへらへらと笑いながら、じーーーーーーを続行した。それでも効果のないやつには、さらに三歩近づいて、べろをだらーんと出し、目をくわっと見開いてから頭をゆすってみた。こんな根気強い非暴力不服従運動がやっと報われ、まもなくおっちゃんたちは皆、しーんとなった。
 俺は皆に一礼し、少し離れたところにあるトイレに行った。トイレには一人、げーげー吐いているのがいた。ちらと俺を敵意のある目で見ると、そのままげーげー吐きつづけた。トイレを出ると、このオッサンもふらふらといっしょに出てきた。男は俺たちのテントの横でふいに立ち止まり、
「うぼげええッ!」
 俺が速射砲のように戦闘態勢をとろうとした瞬間、今まで静寂を守っていたわが友の黄色いテントが大きくごわごわと揺れたかと思うと、ぱっと開いた入口から目を剥いたオッサンが熊のように踊り出、
「て・め・え・ら、いったい何時だと思ってんだ!」
 広大なクッチャロ湖のゆるやかな時間が、刹那、止まった。水面をつつく小魚、朝の囀りをはじめた鳥たちまでもが止まった。草や木、大気までもが息を止めた。
 オッサンの目は今まで見たことのないような凶暴性を帯びていた。こうなったら誰にも止められない、そんな目だった。俺も、はっと息をのんだ。
 と、そのとき、十人連れの一人が、朝だよー、とからかい調子でいった。本人は消極的反抗のつもりだったのかもしれないが、草木の沈黙がその声をはっきりと俺たちの届けた。
「今、朝だっていったヤツ! こっち来いッ!」
 宗教家であり、空手家であるオッサンはもう本気だ。殺傷事件になる、と虫が走った。向こうの仲間うちで少しまともそうなのが一人小走りで俺のところに来て、
「キミら、すまんかったなあ。もう静かにさせるから、堪忍したってや。」
 すると最後まで反抗的だった大男が、あきらかに不満そうな顔をして、威圧すうようにこっちに歩み寄ってきた。こんなやつらに謝ることなんかないといった感じだ。俺は、なんだいそのツラ、と、ひとこといってやった。やつめ、凄みを入れて、
「眠いんだよ。文句あんのか。」
「眠いのは俺たちだ。」
 俺に手をだしてみろ。隣の空手家が…、と思って横を見たら、
「まあまあ、ケンカはよろしくないですねえ。」
 と、いつのまにか元暴走族の武闘家からすっかり変態宗教家の顔に変身してしまったオッサンに、俺はがくっときた。
「さっきクラクション鳴らした人いましたね。あれ、誰なんです? 連れてきてもらえますか?」
「知らねえよ。」
「知らないって、あなたたちの誰かでしょう。」
 今や敬虔なクリスチャンとなったオッサンは調停に余念がない。知らないものは知らないと白を切る相手は、いつのまにか、
「おたくらこそ、あんな大声だして、他人に迷惑だよ。」
 なんてことをしゃあしゃあと抜かしはじめる。結局、すぐにここを引き上げてもらうということで話はまとまったが、その引き際も、エンジンは空ぶかしするわ、タイヤは鳴らすわで、もうガキそのもの。俺たちだってガキだが、腐ったガキではないつもりだ。
 朝七時半ごろパトカーが来た。近くの自動販売機が破壊されたのだという。見に行くと、昨日、俺もカロリーメイトを買った販売機は無残に壊されていた。そのへんのキャンパーがぞろぞろ集まってきて、夜中に大きな物音がしたとかなんとか証言しはじめた。君たち、どこに潜んでたの? 俺は覚えていたクルマのナンバーをおまわりさんに報告しようかと思ったが、何だか馬鹿らしくなって、そのままキャンプ場をあとにした。

 

 メニュー>> ルンプロ2人北海道95 インデックス Copyright: BananaFish Days 2001