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<7月5日(水)>
天気、晴れ。
昨晩の雨露が朝日を反射してまぶしい。雨をたっぷり吸いこんだ芝と土の匂い。陽光がさっと翳ったかと思うと、駆け足で一陣の霧が地表をなめて渡っていく。そして光がまたもどってくる。
こういう状況のなかで黙々とテントを撤収する瞬間がいちばん好きだ。これから走る場所への期待、そして緊張。このときばかりは、変態オッサンも修道士の表情になる。バイクのチェーンに注油し、注意深くパッキングを完成させていく。午前11時出発。
キャンプ場で入手した博物館や水族館やらの割引券のうち、網走監獄の券を使うことにした。この危険きわまりないオッサンの前世を見ることも勉強である。ここは旧網走監獄を資料館として残したもので、現在の網走刑務所はもっと北にある。
平日だというのに観光バスが何十台も止まり、けっこうな人出だった。立派なゲートの前で、オッサンとがっちり肩を組み、
「おーウら、ひッさしぶりやのー。」
「ほんま、なつかしいでえー。げへへへ。」
なんてやっていたら、周りのおばちゃんたちがズザッと飛びのいた。
気をよくした俺たちは、記念撮影用の監獄に足を進めた。オキマリの牢屋には、けっこう人だかりがしていて、かわいい顔をしたお姉ちゃんたちが一人一人牢屋に入って囚人気取りでパシャパシャとシャッターを切っていた。みんな、わざと顔をしかめたり、うええ、とか変な声をだしたりしてふざけているが、そこどけそこどけ、本家本元、凶悪顔面が通る、だ。
オッサンはしずしずと牢屋に入った。そして中の壁を指でなぞり、石の床を靴の先でこつこつやったり、かと思うとおもむろに天井をあおいで鼻の穴をむうっと全開にして息を吸いこんだり、これにはさすがに周囲の人たちはすっかり静かになって一人去り二人去りしていく。新規のおばちゃん一派が牢屋の前に来るのを見はからって、片手を檻のすきまからだらんと垂らしたオッサンは、
「いえへへへ……。」
さかんにシャッターを切るおばちゃんたち。どうやら蝋人形と間違えているらしい。直後、何食わぬ顔で檻からすたすた出てきたオッサンを見て、そこにいた老婦人など、口から心臓が飛び出そうな形相をしたものだ。
網走監獄を出ると、国道238号を北上。右手にオホーツク海を見ながらのすばらしいルートだ。地元の人の話では、網走などオホーツク海沿いは晴天が多い気候らしい。極東網走のイメージはがらりと変わった。
オホーツクといえば海の幸。オッサンは道端の直売所で殻つき牡蠣を5個買い、洗いもせずに生のままガリガリ食いはじめた。
「ひとつ、どう?」
俺は固く遠慮しておいた。やっぱりこのオッサンはどこかおかしい。
この日は浜頓別町、クッチャロ湖に泊まる。釣をしていると、オッサンがワカサギを釣りあげた。俺の方は釣果ゼロ。俺たちのテントの横で地元のおっちゃんたちが十人ばかりでドンチャン騒ぎをしていたが、俺は九時ごろにはスカーっと爆睡。あとのことはてんで覚えていない。
しかしこのとき、着々とこのツーリング最大の事件が・・。
そして、われわれは、クリスチャン・オッサンの真の姿を見ることになる。
(本日の走行・推定330キロ)
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