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8、湖面に翻る怪魚

 <7月2日。日曜日>
 
 朝、目覚めるとテントごしに日差しを感じた。まさかと思って外に出ると、すばらしい晴天。昨日の霧が嘘のようだ。さらに驚いたことに目の前に青い湖がひろがっている。昨晩到着したときには夜だったのでまったく気がつかなかった。
 まだテントで眠っているらしいオッサンを出し抜いてやろうと釣り道具を用意し勇み足で湖面にのぞむものの、水深50センチほど。とてもじゃないが、幻の名魚、イトウがいる雰囲気ではない。
 テントにもどろうと歩いていると、オッサンのテントががさごそと怪しく揺れた。
 ばばーん!!
 スクール水着に水中メガネという出で立ちの世にも危険な宗教家が姿を現した。そこらへんにいたガキたちは仲間を呼びあい、周囲の大人たちのざわめきも聞こえる。平穏なキャンプ場の朝を乱した張本人は、小学生たちの「パンツ男だ」という嘲笑を気にもとめず、釣り道具片手にざんぶざぶと湖面をかきわけて入っていく。あきれたことに、これでほんとうにオショロコマを一匹釣りあげてしまったのだから、案外才能があるのかもしれない。

 やがて釣に飽きたオッサンは、何を考えたか道具を投げだし、ただ単身、沖にむかって豪快なバタフライ泳法をはじめた。静謐な沼沢に、響き渡る「ばったん、ばったん」という水打つ音。まさに怪魚現る! といった様相だ。どう見ても人間の泳ぐところではない。

 水からあがってきたオッサンは、さすがに、
「うへえー。こりゃ沼だあ。濁っとる濁っとる。ぺっぺっ!」
 このあと朝飯の準備をしていると、テントの外に出しておいたゴミ袋がビリビリに荒らされている。キツネの仕業らしい。ああ、ここは北海道なんだ。

 

 

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