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苫小牧の早朝は霧にけむっていた。
上陸すると小雨。けっこう寒い。
合羽を着こんでの北海道初走行。道がだだっぴろい。片側四車線。たっぷりの路肩と中央分離帯、そしてまわりにはただ原野が広がっている。
「あー、ウニ丼食いてえ〜!」
コンビニで休憩中、何度も叫ぶ俺を見て、北海道ヴェテランのオッサンは、
「よしゃあ。襟裳岬で朝飯にしやしょう」

確かにこんな原野のただ中でウニが獲れるとは思えない。
「そこならウニ丼ある?」
「北海道でっせえ」
ということで、あまり深く考えずに襟裳岬をめざして走りだした。そのとき俺の頭には襟裳岬が160キロのかなただとは知る由もない。
小雨の原野は緑が鮮やかだ。原野の景色はそのままで、ときどき海が右手に開ける。原野とは対照的に海の色は暗い。なんとも特異な景色だ。道路の左手の崖から滝が水音をたていたところでバイクを停めた。本土なら山中の光景だが、滝の水が落ちこむ先はなんと海だ。北海道の自然は、本土の人間の小さな常識をあざわらうような豪放さをもっている。そして距離感覚もまた本土と比較することはできない。オッサンがまさに「朝飯前に」といった160キロの距離は確かに朝飯前だった。
様似という小さな町の釣具屋に寄り、店主から情報を仕入れようとしたが、「イトウ」の名前をだしたとたん、店主は固く口を閉ざした。しかたがないので自分たちで勝手にルアーを見つくろった。あくまでターゲットはイトウだ。「対象魚・イトウ」と箱に印刷されたルアーを差しだすと、店主はあきれ顔でレジを打った。包装の袋が少し変わっていて、どうみても普通の郵便封筒である。消印のついた切手がはってあって、宛名と住所も手書き。ずいぶんと凝った袋だなあと感心していると、相方の方の袋はガス料金の請求書の封筒だった。
「省資源、省資源」と店主が苦笑いする。
この先、襟裳岬が近づくにつれ、雨足が強まり、濃い霧に行く手を阻まれた。ペースが落ちる。それでも本土で走るときの速度域ではない。ついにウニ丼岬、ならぬ襟裳岬に着陸した。ひとけのない襟裳岬ドライブインで呼びこみをするおばちゃんたちと何やらあやしげな交渉をするオッサンを尻目に、早いとこウニ丼を食いたくてたまらない俺は勝手にいちばん右端の店に入った。オッサンはうらめしそうに交渉を切りあげ、俺の耳もとで、
「去年は1500円だったよ」
と、納得がいかぬ顔であるが、そんなことより俺は目の前に広がる豊穣なウニのひろがる丼ぶりに一刻も早く鼻をうずめるのだ。
満腹の充足感とともに雨と霧の中を岬の先端まで歩いた。ここの霧笛が強烈。ナチスの精神破壊拷問器具としても十分に通用しそうな凄まじい音。ズラッとならんだ鈴なりのスピーカーから脳髄粉砕寸前の振動。こうなるともう音ではない。破壊的な振動だ。オッサンとほとんど逃げ腰でその場を去った。
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