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乗船手続きを済ませても十一時の出航までにはかなり時間がある。
「ひとつどうでやす?」
そういってトバを差しだすオッサンの口にはすでに一本ぶらさがっていた。ひとさし指ぐらいの太さで長さは四十センチほど。カリカリに乾燥しているが、うろこの荒い皮の部分が妙になまなましい。スルメのように噛めば噛むほどに味がしみでてくるが、ぷんと生臭い。それでも「苫小牧行き」という荷札をつけた愛車の前でリザーブをかたむけていれば気分もよい。オッサンは早くもトバ攻撃2セット目に突入しているが、俺は2本目は丁重に断った。けっきょく食べきれなかった30センチばかりのトバを荷物の横にくくりつけた。これがなかなかいい味を出している。
九時を過ぎたあたりから、金曜の夜ということもあってバイクが続々と結集してきた。GLとスパーダの中年カップル、原チャリ高校生三人衆、オフロード軍団八台、ビーエムのタンデム夫婦。地元ナンバーの彼らは、きっと仕事や学校が終わったあとに、こうして北海道をめざして集まってきたのだろう。
アナウンスに誘導され、いよいよ乗船。迷路のような船内をなかば競争のように走ってしまうのはライダーの性か。客室にあがったあとも、ほっと一息つく間もなく激しい陣取り合戦。経験の浅い俺が悠長にすわっていると、あれよあれよという間に四方をぐるりとおばちゃんたちの寝袋で埋め尽くされてしまって足ものばせぬほど。
なんともシビアな世界だ。
出航時間前に、すでに船内は難民船の様相を呈した。しかし活気があっていい。俺は2本目のリザーブを半分ほどあけて、耳栓を突っ込んで横になった。みだらな寝姿のおばちゃんたちの足裏に囲まれて、実にいい夢をみることができそうだ。
仕事を終えた充実感、徹夜で走り明けた満足感。明日ははじめての北海道!
(本日の走行・830キロ)
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