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10月14日(土)〜16日(月)
四国上陸。
宇高国道フェリーは一時間ばかりの船旅だが、瀬戸内海の島々を見ながらの風呂は最高だった。高松は四国の玄関口。林立するビルも整然として街に気品がある。市街地を一歩出れば、屋島、八栗など、海に突き出した単独峰の名勝地。麓から山頂近くの松の木の枝ぶりまで見える程度の標高だが、その中に急峻な崖あり、洞窟あり、数々のため池ありと、変化に富んでいる。
なかでも屋島と八栗の景観に特徴をそえているのは、山肌をまっすぐのぼるケーブルカーだ。こういうものはふつう景観にとってマイナスとなることが多いのだが、このぐらい小さい山となるとかえってアクセントになる。そもそも屋島ケーブルカーの駅などは、まるで場末の港につづく終着駅みたいにひなびていて、ほんとうに観光目的の構造物なのか疑いたくなってしまう。駅の真向かいは中学校である。そして昔、俺はここに通っていたのだ。
当時の記憶で、このあたりに幼稚園の庭ぐらいの小さな池があって、八十センチ級のライギョがぷかりぷかり浮いていた。中学生だった俺はそんなモンスターたちに胸をときめかせながら自慢のベイトキャスティング・リールで格闘したものだ。でも学校とケーブルカーの駅と林立する民家のただ中に野池がぽっかり口を開けているというのも無理な設定で、これはきっと自分の記憶違いだろうと思っていただけに驚いた。記憶のまんまの場所、学校の裏、ケーブルカーの駅前の民家の横に、確かにそれはあった。ただ、水はなかった。池の大きさと同じ長方形の穴の底でショベルカーが唸りをあげていた。穴の隅の方の土が黒いヘドロ状になっていて、昔、ここが池だった名残を残している。工事の看板に、馬場池という文字があった。もしあと一ヶ月訪れるのが遅かったら、単なる記憶違いで通りすぎていたことだろう。開発の波か。
もうひとつの記憶は高柳池。むかし銀色に光る不思議なライギョを釣りあげた場所だ。クランクベイトDDを試し投げしているときの偶然だった。この池はじっさい記憶のままの姿で、ほっとした。ワームで攻めるがアタリもなし。オッサンをそこに残し、市街地の釣具屋へ行き、クランクベイトDDを買う。
池にもどって投げていると、ぐっと米袋ほどの手ごたえ。根ガカリかと思いきや、緑の魚影がギラッ。同じ場所、同じルアー、そして十年来の同じ偶然。浮き上がってきたのは、なかなか見事なブラックバス。貧弱な安竿では折れてしまいそうで、危険だが糸を直接手でたぐり寄せる。オッサンも小バスを二匹ゲット。なかなかよい出だしだ。
この日、高松市内の池をあちこち偵察しながら野営地をさがす。だいたい高松というところは年間の降水量が極端に少なく、そのため江戸時代から多くの溜め池がつくられてきた。高松ではトヨタの自動車を見るよりも、溜め池を目にする方が多いぐらいだ。この日に偵察した池は、大小あわせて百はこえる。

キャンプ地に決めたのは公渕森林公園。公渕池と城池という二つのメガ級溜め池を中心とした環境のよい場所だ。周囲にはさらにゴマンと池がある。ここに定住し、思う存分釣りまくる所存。気合はじゅうぶんだが、翌朝目が覚めたのは午前九時。日曜ということもあって、すでにどのポイントにも釣り人がついている。半分あきらめながら周囲の無名の池を攻めてみる。スピナーベイトというキラキラとピラピラとブラブラのついた、とてもケバケバしいルアーがある。本にはよく釣れるルアーとあるが、こんなへんてこな針にどうやったら魚が食いつくのか想像できない。
オッサンに、
「スピベって、どうしても釣れる感じがしなんだけどなあ・・・」
といった直後、そのスピベに突如、激しいヒット!
締め込むような強大な引きが竿を軋ませる。

四十センチオーバーのブラックバスがあがってきた。スピナーベイトの悪口は以後、慎もう。釣りあげたバスをオッサンに引き渡す。今日からの夕食は自給自足でいこうと決めていた。
「ここでシメてこ。」とオッサン。
シメるとは頭をなぐり、内蔵を引きずり出して三枚におろすことをいっているのであって、「あいつ、シメたれ」などと人間を相手に使うのはとても危険な言葉である。頭をなぐる石を探していると、オッサンがしょんぼりと、
「こいつ、今から逃がしてもダメかな?」
「どした?」
「ちょっと強烈。匂い。」
かくしてそのバスは自らの匂いの救われ、元気に池に帰っていった。夕方に一匹、夜釣りは坊主。けっきょくおかずはレトルトカレー。食べながら、ウシガエルがルアーを追っかけてくるへんな池の話をしたら、オッサンは「そりゃ最高のご馳走だったのに」と悔しそう。

翌日は朝から本気。釣れなかったら米に塩だけという背水の陣でのぞむ。
オッサンは水の比較的きれいな公渕池、俺はウシガエル池で餌釣り。こちらの釣果はマブナ三匹、小バス八匹、それに手のひらほどもある毛ガニ。食うぐらいだったら断食した方がマシなぐらいに臭い。よって放流。
昼間は海にも繰りだす。
ここではフグが四匹釣れたが、今のところはまだロシアンルーレットをしてみるほど飢えてもいない。よって放流。

こうなると夜釣りに賭けるしかないが、俺は頭痛で寝込み、夜釣りはオッサン一人で行ったようだ。あとは夢の中の記憶だが、テントの外でジュウジュウと火の音。つづいて、ムシャムシャモサモサピチャピチャ、地獄の悪鬼の饗宴とはおかしな夢だ。翌朝、炊事場にはブラックバスの頭があって、夢ではないことを悟ったが、オッサンはといえば、
「いやー、やっぱこういうとこのバスは食うもんじゃないね〜。」
<三日間の走行・333キロ>
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