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 10月12日(木)

 仕事を午後九時半に終える。オッサンと打ち合わせた出発時刻は午後十一時だが、十時半ごろに電話。
「ごめんちゃー、間に合わにぇー。」
 そして零時近くになってようやくやって来たオッサンであった。
 求道者オッサンの面妖なる生態については「ルンプロ北海道」にすでに記したが、危険な冬山やバイク急便といった数々の試錬の業火に自ら身を呈してきた彼の装備は、究極まで軽装かつ堅固たるものだ。

 国道六号、都内、六本木通りから国道246号は西行きのオキマリルート。深夜の都内は賑やかなところを通るのが旅立ちの気分を盛りあげてくれるというものだ。沼津から国道一号を西走し、光華やかなトラック野郎にまみれて走るのもまた一興。
 静岡をこえた袋井というところで、朝四時。ここで歩道橋の下にシュラフを広げ、小休止。しかし明るくなってくると、なんと民家のド真ん中。通報されぬうちに発つとしよう。
 やがて出勤タイムとぶつかり一号国道は渋滞。手ごろなところで幹線道路離脱。152、473、257と極細悪路の3ケタ国道を縫って走る。三河近辺の3ケタ国道は空気がいいが、スタンドもコンビニも何もない。ときどきは町に出てタンクと腹につめるものをつめる。

 岐阜県岩村というところでやっとコンビニを発見。オッサンは白昼の駐車場で大の字になって寝ている。ほどなくオフローダーの好青年が一人やって来て、しばし話をする。徹夜で下道を走ってきたというと、青年は手をたたいて笑い、
「そんで、こっちの方、こんななっちゃったわけですね。」
 と、大の字男を見た。
「このあと、どこまで行くんです?」
 岡山まで行き、宇野高松(四国)行きの国道フェリーに乗って四国上陸するつもりだというと、
「岡山ですかあ。たいへんだなあ。」
 高速道路で行くのかときくので、俺はくびを振り、
「下道で琵琶湖を抜けるいい道はないかな?」
 山道はオフローダーにきくのが一番だ。
「やっぱ名阪国道じゃないですかね?」
「それって高速道路みたいな道でしょ。」
 俺が知りたい道は違うのだ。
「え? 林道みたいな道ですか? 岡山まで?」
 青年は目を輝かせ、「そーいうの好きだなあ! で、今日中に四国行って、明日にはトンボ帰り、とか?」
「まさか。四国に着いたらしばらくは腰を据えて釣りをしなきゃならないんだ。」
 そのとき寝ていたはずのオッサンが、ガバと上体を起こしたかと思うと、ひと吠え、
「なんじゃー、そりゃー! ぜんぜん急ぐ必要ないじゃんか!」
 青年もひとしきり笑い、
「釣りですか。確かにそりゃ急がんと。」

 その後は、363、248、417、303で琵琶湖にたどり着き、琵琶湖岸の県道はさわやかなナイスロードを通破し、松の木陰、波打ち寄せる静かな浜辺で優雅な昼寝。松林、砂浜、潮風、すべてが海のミニチュア版といった感じで趣きあり。

 しかし琵琶湖はでかい。琵琶湖大橋を渡るころには、視界は西日で茜色。367、鞍馬街道、477、372。もうこのへんになってくると、メチャメチャ厳しい山道。おまけにブラインドコーナーでは大型トラックが道をふさいでふっとんで来ること、たびたびで、寿命がカウントダウンを打ちながら縮まっていくようだ。
 やがて日は暮れ、ワインディング夜の部。昼間はぐったりしていたオッサンも、ようやくヤケクソになったのか元気な走り。姫路市街に着いたのが午後十時。ここで博多ラーメンの看板にさそわれ、遅い夕食。姫路からは国道250号。これまでの山岳ワインディングからかわって、岡山まで延々120キロにわたる海岸ワインディングだ。
 午前零時。二十四時間たったが、岡山には着かない。しかしフェリーに乗るまでは「今日」は終わらない。相生湾の道端でビバーク。一度、酔っ払いにたたき起こされる。夜露で頭と寝袋がぐっしょり。バイクカバーを上からかけて、もう一度仮眠。朝五時。こりゃ不覚。くだらないことは最後までやり遂げてこそ、くだらなさも引き立つというもの。岡山までイッキ走りを貫徹せねば。疾駆、疾駆。宇野港には午前七時に到着。走行は999キロ。ついでに港の中をぐるぐるまわり、距離計を1000 キロぴったりにする。フェリー券を買い、長い一日が終わった。

<本日の走行・1000キロ>

 

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