事件ファイル002


が買ったZZRというやつは、とにかくひどいものだった。
ショップ自体、直して売るか、業販で流すか考えていたぐらいで、まだ値札さえついていない。そいつを試乗させてもらい、55万の現状渡しで購入したわけだ。
「何でもいいから早くして」
人生でたいていのことは我慢できると思っているが、待つことだけはできない性分で納車の日を心待ちにしていた。
正直なところ、BMWのオフロード車では都内を含む1日往復120キロの通勤に耐えない。ZZRとタイム差で見るとたいした違いは生じないのだが、走ったあとでの満足度では遠く及ばない。毎日の通勤を楽しみにしている僕としては、やはり一刻も早く通勤快足が欲しい。
8月22日(金)は納車前日。
ショップから電話があった。次のような内容だ。
「ナンバーまで取ったんですが、納車前のテスト試乗で2速に問題が出そうな感じなんです。他の人なら出すんですが、市原さんは壊しそうだから言っときます。このバイク、やめましょう」
 売り手が「やまましょう」というのも変な話だが、クレームなしの現状渡しという条件にもかかわらず契約解除を提言してくれたショップ側の良心に敬意を表し、今回のZZRはあきらめることにした。
れにしても。
ZZRは納車直前にリコール、かよぼんZZRは入院、TESIも目下長期入院、唯一の望みのBMWも悪性のオイル漏れで入院ときて、ついに市原家で動くバイクは壊滅。
街中に溢れかえるバイクたちを、横目指くわえで眺めながら、
「バイク〜」
とせつない声をあげる男の濡れた瞳に1台のバイク、いや元はバイクだったはずの塵芥が映りこんだ。
れまで壊れては乗り捨ててきた男が、今、人生で初めて不具の機械に優しい目をむけた刹那だった。


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