事件ファイル001


97年盆。妻のZZR1100CIを乗っていて青春を感じた。
帰郷した長野から千葉への帰り、ツマサキステップ腰浮かせで意味もなく下道で峠を走りつないだ。家が近づくにつれ僕はある決心を着々とかためていた。
自分もZZRを買おう。
楽しさのあまり、わおーんと吠えながら農道を駆せる。がらの悪いワンボックスを抜き去るとき、いちろくまるを指すメーター。農耕車優先の道でこりゃちとやりすぎだと思ったら、足もとからカラカラカラ。
また抜けたかいな、この5速、とブレーキレバーに手をかけた瞬間、左足もとで、
  ばきーん
そのままリヤタイヤはロック。路面に100メートルにわたって黒々と尾をひいてZZRは停車。止まったはいいが道の真ん中で、押そうが引こうが動かない。
見わたす限りの田んぼの中の一本道。
最悪。
幸いケータイがつながり、幸いビーフリー(※バイクを買ったショップ)がやっている。トラック待ちの1時間あまり、退屈しのぎに簡易イスで三本足のレーダーもどきを道わきに据え、田んぼの畔道に屈みこむ計測官の真似をして遊ぶ。
店にバイクを運んでもらい診断してもらうと、チェーンが切れ、スイングアームに食い込んでいる。ドライブスプロケットはナットが脱落、はずれるときにカバーをクランクケースの一部ごと吹っ飛ばした模様。これが「ばきゃこーん」の音の原因のようだ。
「何やってたんです?」
 ショップの人は怪訝な顔である。
「まっすぐな道を走ってました」
「ほんとうに、それだけですか?」
「空を飛んだりはしてません」
 僕の冗談を無視して、
「メカニックが、カウルとマフラー擦ってるって言ってますよ。納車した時にはなかった」
「僕、こけてませんよ」
「そんなこと分かってます」
 だいたいからしてビートの馬鹿マフラーがでかすぎるのだ。どこの世界にステップより先に接地するマフラーがあるというのだ。しかしカウルは知らなかった。俄然、青くなる。
「かみさんだけには内緒にしてくれます?」
 この2時間後、僕はZZR1100CIの購入契約書にサインすることになる。
 家に帰ったあと、自分のZZRを壊されて不機嫌なかみさんに、
「君の愛車にはもう指1本触れないよ!」
「どういう論理構造でそうなるのかしら?」
 穏やかな笑みをたたえてそう言う彼女に、
「すみません! またバイク買っちゃいました」


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