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その朝、階下のバイク屋から電話があった。
家の前には、炎上して以来、ガレージに預かってもらっていたナナハンがあった。
燃えたんだ。
そのとき僕が思ったのはそれだけだった。
黙って見ていると、バイク屋は消火剤臭の残るナナハンを店に入れ、手際よく分解しはじめた。目をつぶっていてもできるんじゃないかと思うぐらいに、またたくまにナナハンはバラバラになった。
ラジエターをはずし、マフラーをはずし、最後にエンジンをはずした。
「噂には聞いていたけど、ここまで消火剤がすごいとはね。さあ、白い粉をせっせと落とすことにしようじゃないか。ほっといたら一週間できれいにパアだからね。」
いつのまにか店に出入りする数人が消火剤落としに加わり、みな黙々と手を動かす。クズ鉄同志のtakasakiや駄犬の姿もあった。平日の昼間だというのに、まさか消火剤落としをするとは不思議なめぐりあわせだ。

エンジンは前後の二箇所に穴が開いていた。凄まじい勢いで鉄片が飛び出てきた痕跡として、マフラーのパイプにも弾丸を受けたようなきつい窪みができていた。
エンジンヘッドをはずすと、一同はあっと声をだした。それはなぜか美しかった。カムシャフトの鏡面、バルブ、ピストンの頭。
「四万キロの老朽エンジンのわりにはパワーが出ていると思ったが、そりゃ出るわけだ。こいつは老いぼれてなんかいない。立派な現役だよ。」
壊れたエンジン下部を見ていくと、ねじ切れたコンロッドが現れた。折れたコンロッドが、死に物狂いのボクサーみたいに手の届くかぎりのものをブチのめしている様子が頭に浮かんだ。スリーブが破損し、ピストンは軽くバルブをたたいていた。しかし想像していたのと違って腰上(エンジン上部)は思っていたよりダメージは少なかった。
「もしかして生かせるかもしれませんよ。上が使えれば、五十万ぐらい出したら、いいエンジンができる。」
バイク屋は破損したパーツの番号を調べ、メーカーに問い合わせた。しかし製造されて十年以上たつ不人気ナナハンのケース(エンジンの外壁)だ。売れずに消えた歌手の衣装をいつまでも置いておくような真似なんて、どの企業だってやりたくはない。
「残る道は、もうひとつ同じバイクをどこかで地道に探すしかないですね。こいつにまだ乗る気があればの話だが。」

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